【事例報告】社会人としてのマナー「挨拶」

はじめに
就労継続支援B型の支援の中で、社会人としてのマナーを指導する場面が多々ありますが、今回は以前私が勤めていた事業所であった「挨拶」の指導についての話を書いてみようと思います。
事業所について
私が初めて勤めたのは知的障がい者支援施設で、生活介護と就Bの多機能型事業所でした。
その事業所は一般的な知的障がい者支援施設で、重度〜軽度の知的障がい、ダウン症、ASDの方を受け入れていました。
社会人1年目のKさん
【年齢】10代後半
【性別】男性
【障害の程度】軽度の知的障がいを伴う発達障がい
【生活場所】自宅
【性格、特性など】
- 自由時間に1人でのんびり過ごせる
- 面白いことには敏感で興味津々
- 年配の女性陣に可愛がられがち
- 注意されることに敏感で気持ちが焦ってしまう
- ルールを守ろうとし他の人にも注意しようとする
- 日常会話は可能
「挨拶」をしましょう
ある日、Kさんは朝来所してすぐに会った人に「おはようございます!」と元気に挨拶をしました。
他のスタッフや利用者さんにも元気に「おはようございます!」と挨拶し、相手も気持ちよく「おはよう」「おはようございます」と返事を返し、お互いになんだか晴れやかな顔で過ごしていました。
翌日もKさんは「おはようございます!」と会った人みんなに挨拶をしていました。
私はその時就Bの担当ではなかったので詳細はわからないのですが、おそらく帰りの会にて利用者さんみんなに向けて「会った人にはおはようございますと挨拶をしましょう」とお話があったのだと思います。
ほとんどの就Bの利用者さんがスタッフや仲のいい利用者さんにだけ「おはよう」「おはようございます」と挨拶をするだけなのに対して、Kさんは毎日元気よく「おはようございます!」と会った人みんなに挨拶をしていました。
トラブル①挨拶を返してくれない
ある日、Kさんは打ち合わせ中の職員室へ入ってきて「おはようございます!!」と挨拶をしました。
就B担当のスタッフが「Kさん、今は打ち合わせ中だから」とお話して職員室から出るように言いましたが、Kさんは納得していない様子でした。
そしてしばらくして、利用者さんの休憩場所から女性利用者さんの泣き声と、男性利用者さんの注意する声が聞こえてきました。
様子を見に行くと、Kさんが男性利用者さんに注意されており、女性利用者さんが顔をしかめていました。
この女性利用者さんはその日あまり調子が良くなく、機嫌があまりよくありませんでした。
男性利用者さんに話を聞いてみると、「Kさんが女性利用者さんに何度も「おはようございます」するんだ」と怒っているようでした。
状況から察するに、Kさんが挨拶をした女性利用者さんは挨拶を返せる気分ではなく、返事が返ってこないことに戸惑ったKさんは返事が返ってくるまで何度も「おはようございます!」と顔を覗き込んで挨拶し、近くにいた男性利用者さんが注意したようでした。
トラブル②会うたびに挨拶をする
別の日のこと。
この日は、Kさんの顔つきがやや強迫的で、調子が良くないことが見受けられました。
Kさんはいつものように挨拶をするのですが、2回目に会った時も、3回目に会った時も「おはようございます」と挨拶をしました。
挨拶を返してくれないと顔を覗き込んで「おはようございます」と返事を求めたり、追いかけていって「おはようございます!!」と返事をするよう要求しました。
私たちスタッフは顔を覗き込まれたりするのには慣れていましたが、利用者さんたちは強迫的な表情で顔を覗き込まれたり、追いかけられたりするのは怖く感じてしまったようでした。
それまで「(学校を卒業したばかりで)かわいらしいねぇ」と年配の女性利用者さんたちにニコニコ見守られていたKさんでしたが、急にあちこちから注意されるようになってしまい、強迫的な表情がさらに強張って焦ってしまっていたのを覚えています。
挨拶とは
何度も会う人に対して
同じところで同じ時間帯に過ごしていれば、朝会った人と何度もすれ違うことは誰しもよくあることと思います。
最初の1回目は「おはようございます」「おはようございます」とやりとりをすることが社会人として基本だと思います。
では2回目以降は、みなさんどうしていますか?
例えば、1回目にすれ違ったのが9時で、2回目にすれ違ったのが13時であれば「お疲れ様です」と軽く声をかけるのではないでしょうか。
しかし、1回目と2回目の間がさほどあいていなかったらどうでしょうか?
1回目が9時、2回目が9時30分だったらみなさんは「お疲れ様です」と声をかけるでしょうか。
おそらく、特に用事がなければ声をかけないか、会釈をしてすれ違う程度かと思います。
これはいわゆる「暗黙のルール」であり、逆にその暗黙のルールを逸脱して毎回「おはようございます」「お疲れ様です」と挨拶をされたらやや奇異に映るのではないかと思います。
「おはようございます」「お疲れ様です」の使い分け
また、「おはようございます」と「お疲れ様です」の使い分けも特に明確化されているわけではなく、暗黙のルールと言えると思います。
午前中に初めて会った人には「おはようございます」、2回目以降もしくは正午以降に初めて会った人には「お疲れ様です」という感じでしょうか。
中には朝から「お疲れ様です」という方もいるでしょうし、「おはようございます」の時間帯も人によってまちまちだと思われます。
つまり、「おはようございます」「お疲れ様です」の使い分けは暗黙のルール(しかも幅のある)によってされています。
挨拶に返事が返ってこない時もある
相手が打ち合わせ中や他の人と話をしている最中、とても忙しそうな時に会ったとして、みなさんは挨拶をどうするのでしょうか。
- 返ってこないかもしれないけど挨拶を軽くする
- その人個人というより全体に向けて挨拶をする
- 会釈だけして「挨拶する気持ちはあるけど今はお取り込み中だろうからやめておきますね」感を出す
- また後で会ったときに挨拶をすることにする
だいたいこのような感じではないかと思います。
つまり、挨拶に対して返事が返ってこなくても気にしなかったり、挨拶すること自体を控えるということです。
暗黙のルールの理解が難しいKさん
「社会人として、挨拶をしましょう」とお話されたKさんは、「仕事にきたら挨拶をしなければならない」と一生懸命挨拶をして回りました。
しかし、暗黙のルールの理解が難しいKさんは、社会人1年目で職場での振る舞いについて経験が乏しかったこともあり、他の人の理解とは少しずれてしまいました。
- 会った人には挨拶をしなければならない(何度会っても)
- 挨拶をしたら相手も挨拶を返さなければならない(どんな状態・状況でも)
- 挨拶を返してくれなかったら挨拶を返してくれるまで挨拶をしなければならない(追いかけてまでも)
このズレが、他の利用者さんに対して恐怖心を抱かせてしまい、Kさん自身も「正しいことをしているのに注意され怖がられてしまう」という状況になってしまったのでした。
全体支援と個別支援
「朝の会」「帰りの会」など全体へ話をする機会というのは、共通の話題を伝えたり、団結力を高めることに有効です。
今回、就B担当のスタッフが全体に向けて「社会人として挨拶をしましょう」と伝えたのは就B担当として当然の支援であり、必要なお話でした。
しかし、全体支援だけでは不十分な利用者さんに対する個別支援が抜けてしまっていたことがトラブルを招いてしまいました。
Kさんに対しては、挨拶の範囲・回数・挨拶してよい状況・挨拶が返ってこない場合もあることを個別に伝えておく必要がありました。
その後
その後、就B担当からKさんへ個別で話をし、また日々経験を積むことで少しずつKさんの脅迫的態度は和らいでいきました。
それにつれ、周囲の反応も少しずつ以前の「初々しい社会人1年目」に戻り、Kさんもリラックスして始業時間までの間を過ごせるようになったのでした。
個別支援を手厚く
生活していると挨拶だけでなく様々なところで暗黙のルールがあります。
明確化されていない暗黙のルールはASDの方には理解が難しく、様々な障がいのある方が生活する場ではトラブルが起きがちです。
引っかりポイントも理解も人それぞれのため、支援に工夫が必要になります。
イアンべでは、全体で話をする、全体で行動することをしません。
全体の時間軸を元に個別のスケジュールで作業し、個別に伝達事項を受けます。
個別の理解、引っかかりポイントに合わせて作業の取り組み方や伝達事項を調整し、提供します。
発達障がい者支援特化型事業所だからこそできる手厚い個別対応を提供します。
イアンべについてお問い合せは随時受け付けております。


就労継続支援B型事業所イアンべの副代表。ルーテル学院大学福祉学科卒。大学在学中から知的障がい者余暇活動グループのボランティアに参加、卒業後は知的障がい者施設や発達障がい者専門支援施設 横浜やまびこの里に勤務。また、企業主導型保育園総務リーダーを担い、手ぶら登園の推進に努める。2024年仙台に移住、クリーニング師取得。執筆中の大半は膝の上に猫がいる。


